アニメと映画など

大森立嗣 監督「ぼっちゃん」を見る。

 大森立嗣監督の映画は凄い。
 役者の演技を長廻しで捉え、息が詰まりそうな緊張感を作りあげます。本作は「秋葉原無差別殺傷事件」を下敷きにしたフィクションで、事件を起こすまでの主人公の感情の流れを追っています。

 秋葉原無差別殺傷事件は2008年、本作は2013年に公開されています。
 実際の犯人の経歴を追うのではなく、フィクションとして「外見が醜く、お金も実力もない負け組以外の何者にもなれない私」が事件を起こすまでを想像力豊かに描いた作品です。

 徹底的に駄目な私を描くエピソードが続き、見るのが辛い部分もありましたが、最後まで見るとある種の爽快感さえ感じました。愛し愛されることができない主人公が、唯一出来たことが人殺しであり、しかしそれは間違っているという自覚もあるために主人公は苦しみ、激しく叫ぶのです。

 本作では、主人公にとっての「敵」として、同僚のイケメンの岡田が登場します。
 イケメンで女性にモテ、力も要領の良さも、人を殺す勇気も持っている岡田を憎みながら、次第に影響を受け変質していく主人公。岡田もまた何かを憎み悲鳴を上げていることを感じ、岡田とともに秋葉原へ主人公は向かうのです。
 愛し愛される、それだけのことができない主人公にとって、自己実現は自分を殺すか、他者を殺すかしか出来ない。

 大森監督は、演技で物語を語るので、台詞外の多様な感情や意味が豊かに描かれています。
 言葉で語れないものを、強く強く感じる作品でした。これで大森監督の映画を5本くらい見たのですが、いずれの作品も不快なテーマやバイオレンス描写に嫌悪を感じながらも魅せられてしまいます。多分才能があるのだと思います。
 なんとも悔しいですが、大森監督の映画は今後も見ていくし、そのたびに才能に嫉妬してしまうと思います。。

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